キルフェボン
生徒さんのお母様が久しくお稽古場にも寄っていなくて、センセイに挨拶も出来なくて。
と、わざわざ寄ってくださった。
キルフェボンのケーキを持って。
中華料理店のチーフを肩書きに持ち、2人の子供を一人で育てているワタシと2つしか違わないお母さん。
その2人の子供は、二人揃って家にお三味線のお稽古に来ている。
始めは、上のお姉ちゃんだけ。
弟は保育園へ通っていて、いつもお姉ちゃんがお迎えに行ってそのまま弟を連れてお稽古に来ていた。
ジャガイモをむいて袖が濡れたと、びしょびしょの洋服のまま冷たい冬にお稽古に来た日もあった。
お稽古中にストーブで洋服を乾かしてあげた。
お稽古中に弟は眠ってしまっていた日もあった。
お料理の支度をして包丁で指を切ってしまったと、深く傷がいってしまった指のままお稽古に来て、家で絆創膏を貼ってあげたこともあった。
弟は小学1年生になった日から、お姉ちゃんと一緒に習うと二人でお三味線をやるようになった。
弟は甘えん坊で、怒られているわけではないのに、「じゃあ、もう一回やってみようか。」というとすねた。
始めは10分が精一杯で、お稽古にならなかった。
そんな弟も今は進んでもう一回やる!!といってするすると楽譜も読めるようになり、「今度お母さんにお稽古見てもらえるといいね。」というと、嬉しそうだった。
昨日、そのお母さんが一人で寄った。
上のお姉ちゃんが舞妓さんになると言い出した。という。
話はそこから始まって。
上の子は一度言ったら、聞かない。というよりも、カノジョが口に出して言うと言うことはその道へ必ず行くだろうとハハオヤとしてはわかると言う。
今年中学生になり、中学を卒業したら、舞妓さんになると。
どうなるかわからないが、とにかくセンセイにはふたりとも厳しく指導してやってください。とお母さんは言う。
でも、最後にそのお母さんはこう言うの。
「カノジョはどこへ出しても恥ずかしくない、というくらいに育てましたから。」
小学6年生の娘のことをこういい切った。
すごいことだと思う。
このお母さんはワタシと2つしか違わない。
このケーキが、ハハオヤとしての自信と、確実にお稽古で手に実技を覚えてゆく娘を誇りに思うお母さんの気持ちの入ったケーキに見えて、しばらくの間眺めていた。